2011年11月17日木曜日

恋 愛 風 景

いくひさしい、鋭いぼくたちを縦横無尽に闊歩させ、異父兄妹をぼくに諭させた、粋な

きみに、さ、感謝してます。ぼくたちのおかあさんは、ひとりでした。きみは、産まれる

と、ちかくの小母さんに育てていただきました、ね。とても、ニコニコしてたのを憶えて

います。ぼくときみとの再会は、南青山のプラットホームでした。待合用のイスで、ぼく

は眠り、そして、ピーチの薫りがするきみに、もたれかかったのでした。きみはいやがら

ずに、そそくさとその場を立ち去ろうとしなかったのです。美雨、とぼくは、寝言を云い

ました。約二十年ぶりの再会が、ぼくの寝言で始まろうとは。な~に、直? へっ? だ、

だれ? きみは。「美雨だよ。しらない?」と、きみは応えました。おもいだした。と、ぼ

くは云いました。ひさしぶり。キレイになった、ね。うん。ありがとう。うれしいわ。こ

この駅で乗ったの? ぼくは、そ、だよ。きみは? わたしも(笑)。このまま、どこかへ

いこうか。ええ。わたし、あと二時間くらい、ここで道草していこうかとおもってたのよ。

手をにぎってくれたんだね。どうもありがとう。と、ぼく。そのかわり、手の甲にキスし

て。「がってんだあ」CHU! わたしも、おでこにキスさせて。うん。といって、ぼくは

仰け反りました。そしたら、接吻箇所は、ぼくの鼻ときみのクチビル、ピーチの匂いがし

ました、よ。ホント? そ、ホント、だよ。ま、うれし。LOVE&PEACH.

「ぼくが、きみを癒してあげる」「わたしの、白血病を?」「ふうむ」夜空に星座が巡って

いて、とても美しいぞ、よ。ベテルギウスって、そ、オリオンの。いまはもうないのよ。

ひかりが遅れて届いているだけ。何光年もさきだもの、ね。「大和の諸君、また逢えて嬉し

いよ」と、ぼくは云いました。ぷっ。と、きみは吹きだしました。きょう、霞町のシリン

でワインを呑んだら、ぼくんちにこない? てれくさい台詞でした、よ。れれれのれ~。  

「直んちに、とまっていいの?」「ああ」「ま、うれし。ホントね?」「ぼくね、宇宙人なの」

「そりゃあ、そうよ。地球人だし、日本人だし」「だから、ウソつかない」「ヘンなの、ね」

 ねえ、わたし、直の仔がほしいの。それが、約二十年前からのわたしの、おおきな希望

なの、さ。「叶えてあげる」と、ぼく。だいじょうぶ。わたしの白血病は遺伝しないから。

そ? じゃあ、これから営もう。うん、シャワーあびてから、ね。いま、ちょうど排卵時

期なの。ま、グッドタイミングだ、ね。CIAO! また、あおね。と云って、睡眠を約

五時間とってから、さよならをしました。十三日後、美雨から電話がリンリン。「はい。も

しもし。どう、体調は?」開口一番。「直、妊娠したみたい。あの、夜中の約二時半に」「一

回で?」「うん。薬局の妊娠検査薬で陽性なのよ」「いまから、ぼくんちに来れる?」「うん、

いいわ。わたし、なんだか、うれしい」「ぼくも、だよ」「あいしてる」「ぼくも、だよ」

 十月十日で無事、公一郎という男の仔が産まれました。ちょうど、朝顔が咲いている季

節に……。で、十二日後に母仔とも、ぼくんちにクリニックからタクシーで移動しました。

降りました。到着しました。そのとたん、公一郎をぼくに預け、美雨はバタと倒れました。

だいじょうぶ? うん。と、かぼそい声で。出産で、よほど体力を使い果たしたのでしょ

う。すぐ、ベッドをつくりました。その三日後、突然ですが、美雨は他界しました。眞っ

白い白雪姫のような笑顔を漂わせ、ぼくはおねえさんに電話しました。びっくりしていま

した。当然です、ね。すぐこちらに向かう、とのこと。公一郎が、カーブを描いて、しょ

んべんをしました。お小水でしょう? と、どこからともなく美雨のおしかりの言の葉が。

それから、ぼくはバルコニーのベンチに横たわって、ボー然。すると、どうしたことでし

ょう。旭まえの東の空に、美雨をのせたオレンジ色の確認飛行物体が翔んでいったと、さ。

萩 原 直 樹

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